2023/08/28
まちの生態系の編み目としての建築
冨永 美保 さん
私は、横浜に小さな設計事務所をかまえて、住宅から公共建築、パブリックスペースまで、全国津々浦々、いろいろな建築の設計をしています。どのプロジェクトでも大切にしているのは、それぞれの関係性の編み目のなかで建築を考えることです。
プロジェクトが始まるとき、必ずその土地に通い、その土地の方の話を聞いて、設計に取り組みます。まちの歴史や、生活の小話など、あらゆる物語とつながり、まちの生態系に編み込まれて、長い時間軸の中で愛され続ける建築をつくりたいと思いながら、設計を続けています。
芝浦工業大学では赤堀忍さんの研究室で、課題のための徹夜を重ねる日々を送っていました。寝ても覚めても、ほぼ大学にいたように思います。設計課題に没頭できる時間は、本当に本当に楽しかった!
同期も後輩も先輩も、議論の渦に巻き込み、巻き込まれて、コンペに取り組んだり、グループで仮設建築を設計施工したりしていました。白熱して、時に喧嘩したりもする時間を経て、建築を考える上での思想は人それぞれに多様で、それらが相反するものであったとしても、どれも尊いということを学びました。
赤堀先生は、「こうしなければいけない」を絶対に言わない人でした。私は先生のそんなところが、とても好きでした。先生と話していると、建築の力で、どこまでも触手を広げていけるような感覚がありました。抽象ではなく個別具体の話を聞き、ともに考え、領域やスケールを横断しながら、建築には何ができるのかを探り続けることの大切さを教えてもらいました。
今も、スタッフやお施主さん、まちの方たちと、これからその場所での物語にあたらしく参加する建築について話すとき、建築単体のことを超えて、大きなフィールドの中のひとつの粒として、どんな存在に育てていくのが良いのかの議論に発展することがあります。 そんなときにふと、赤堀先生と対話や研究室での出来事を思い出します。その時間の続きとして、今も私は建築を考えているように思います。