2025/01/29
運がいいなぁ
佐藤 晋平 さん
2011.3 建築学科卒業(原田真宏研究室)
2013.3 理工学研究科 建設工学専攻修了(原田真宏研究室)
2013.5 隈研吾建築都市設計事務所
2016.6 LINE株式会社 (現LINEヤフー株式会社)
この場でいうことではないかもしれないが、僕は稀に見る運のいい人間だと思う。深夜ふとイカゲーム2を見ながら、おれは借金なくてラッキーだなぁと一人呟くほどには運がいい。莫大なローンを抱えていることは深夜だけは忘れてもいいらしい。
そう言えばここぞという時のじゃんけんで負けたことがない。その昔CMで一世風靡した女性タレントが学園祭に来た時、数百人の中からじゃんけん大会を勝ち抜き、見事DVDと握手券をゲットしたことがあった。今も仕事部屋の本棚の一番上の“ショーシャンクの空に”と“プラダを着た悪魔”の間に挟んである。名作が並ぶ本棚は気持ちがいい。今日は子供を幼稚園に送る時に信号で一度も止まらなかった。ビンゴで商品をもらわなかった記憶がない。と、都合よく記憶を改竄するほどには自分のことを運がいいと思い込んでいる。
最近大学の同期と飲んだ時、彼が自分のことを運がない星の下に生まれた、と言っていて驚いた。そんな人間がいるのかと。しかも同期に。聞けば彼は最近会社の草野球で前歯が折れたらしい。平凡なサードフライを捕ろうとしたら、ピッチャーがジダンよろしく頭から飛び込んできたと。血の海と化したサードベースに駆け寄ってきたショートが、まさにレッドカードや、と言ったとか言わなかったとか。兎にも角にもどうやらコイツより運がいいのは間違いなさそうだ。
今、結婚し二児の父であることも、自分で設計した自邸に住んでいることも、たまにゾッとする。トゥルーマン・ショーかと疑いたくなるほどに人生がうまくいき過ぎている。本当に運が良くてよかった。いや運が良かったと言い切れる選択をしてこられてよかった。
中3の夏、実家を出て、札幌の男子高の進学校に行くか、札幌の共学のスポーツ校に行くか悩んだ時、進学校を選択した自分を褒めてあげたい。卒業して2年後に共学になったと聞いた時は一瞬サイヤ人になれた。
高2の冬、将来に悩み13歳のハローワークを読んで“建築家”と“古着屋”の2択が残った時、建築家を選択したあの日の自分を褒めてあげたい。その後しっかりと受験に失敗し、一浪してから入学したからこそ、優秀な同期と出会えた。彼らと出会わなければ僕は堕落した人生を送っていたに違いない。あの時腐らず勉強に励んでいた自分に感謝したい。切磋琢磨しながら建築に本気になれたのはこの同期たちがいたおかげだ。こればっかりは本当に運がよかった。
大学院に入り運よくコンペに通り出したことに味をしめて、アトリエに行くと就職先も決めずに卒業旅行に行き、帰って来てから3月にインターン先を決めて、あれよあれよと5月には採用が決まったこともラッキーだった。たまたま原田先生がクマジム卒だったこと、たまたま研究室のOBが1人在籍していたこと、たまたま日本人スタッフを多めに採る年だったこと、たまたまインターンで付いた先輩が何も仕事ができない僕のことをとても可愛がってくれて推してくれたこと、いろんな事が重なって採用が決まったと思う。ちなみに後にこの先輩から誘われて現職に転職することになる。なんて出会いだ。それにしても運がいい。
入社してすぐに国内の着工したばかりの案件に入れてもらえた。聞けば10年前にプロポーザルで勝ったプロジェクトが紆余曲折ありやっと着工したらしい。ラッキーすぎる。無事2年かけて竣工を迎えた後、朝イチの上司からの電話を取ってしまった。(後に先輩に聞いた話では、見聞色を極めていた先輩はあえて電話に出なかったらしく、自分は2番手だったらしい)この電話によって新規のふわふわプロジェクトにアサインされてしまった時には流石にいよいよ運も尽きたかなと思った。とはいえふわふわを乗りこなして、なんだかんだ楽しんでいたところ、前述していた先輩から転職のお誘いが飛び込んできた。今思えば悩んでるフリをしながらもなんとなく最初から決めていたのだと思う。どうやらせっかちで心配性な僕の性格はいつもこの手の選択を間違わない。間違っていないと思い込むことができる、恥ずかしいくらいの高い自己肯定感を持っている。その後無事ふわふわプロジェクトをサクサクふわふわくらいにまでは美味しく形作ったところで退社、現職につながる。
生まれた町の人口の3倍は社員がいるようなIT企業は、文字通り街のようだった。外国人も多い。ほぼ知らない人しかいない。いちいちカタカナが多い。会話も名前も。建築業界とは全く異なる環境とスピード感には割とすぐ慣れた。 IT企業でインハウスのスペースデザイナーというなかなか珍しい体験をしている自負がある。サービスブランディング、オフィス構築、イベントブランディング、ファシリテーション、新サービス、生成AI、上場、合併、、、もうお腹いっぱいですと思っても毎年毎月のように何かが変わっていく。飽き性な自分にとって、とても刺激的な毎日を送っている。建築業界を少し外から見れているのもなかなか興味深い。“あちら”も“こちら”も、両方を知っているからこそ分かることがあると思う。それこそトゥルーマン・ショーのように。
そう言えば少し前に役職がついたことから社内で自己紹介をする機会が増えたので、建築家を名乗るようにしてみた。意外と反応は悪くない。むしろやっている事が伝わって分かりやすいです、と “あちら”ではとても分かりにくい経歴の僕は少し戸惑う。でもまぁこんな建築家が一人くらいいてもいいよな、とも思っている。
しかしまぁ僕の人生は不思議なほど運が尽きない。それどころかドバドバと湧き出てくる。 黙っているだけで、こんな“卒業生の輪”なるステキ企画を紹介してもらい、こんな訳のわからない長文を寄稿できるのだから。次はどんな選択があり、どんなラッキーが待っているのか、これからも運がいいと思い込んでいこうと思う。