多様性を育む、場と教育  ~銭湯的空間を目指して〜   -加藤優一    

加藤優一
(かとうゆういち)
2006年芝浦工業大学工学部建築学科
(株)銭湯ぐらし 代表取締役
(一社)最上のくらし舎 共同代表理事
OpenA+公共R不動産パートナー
東北芸術工科大学 専任講師

私は、デザインとマネジメントの両立をテーマに、建築の企画・設計・運営・研究の一連のプロセスに携わっています。銭湯を起点にしたシェアスペースの運営や、地域資源を活かした空き家再生など、事業を伴う場づくりの連続によって、実践的なまちづくりを目指しています。

この働き方に至ったベースには、本学での経験があります。最も記憶に残っているのが、私が所属していた堀越研究室が主催する「room」という勉強会です。毎回多様なゲストが集まり、自由に議論が交わされていました。「こんな時間を包み込みこむ空間をつくってみたい」。建築を人と時間の関係性から考えるようになったのは、この頃からです。

もう一つ、印象的なエピーソードがあります。ある日の講評会で、私の設計課題に賛否両論があったのですが、案を推してくれた先生とそうでない先生が、真剣に議論してくださったのです。そこには、学生と教員の垣根はなく、多様な考えが交差していました。あの日、背中を押してくれた先生が居たことで今の自分がいます。今の芝浦工業大学は、建築学部が誕生したことで、さらに幅広い考え方に触れられることが羨ましい限りです。

以上のような経験を踏まえて、現在は大学の教員として、学生の価値観を広げられるような教育を目指しながら、実務においても多様性を包み込む場づくりに取り組んでいます。今注目しているは「銭湯」です。銭湯では自分に向き合うこともできるし、言葉を交わさなくても人とのつながりを感じられる。そんな場所が現代には求められている気がします。ちょうど今月、銭湯の活動をまとめた本を出版することになったのですが、学生時代に考えたことも書いているので、ご興味がありましたぜひ手にとって頂けますと幸いです。

旧富士小学校の再生(基本構想・設計)
小杉湯となり(企画・計画・運営)
銭湯から広げるまちづくり(学芸出版社)
万場町のくらし(設計・施工・運営)